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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2383号 判決

第一審原告

渡辺文夫

(第二〇五二号事件控訴人・第二三八三号事件被控訴人)

第一審被告

西武運輸株式会社

(第二〇五二号事件被控訴人・第二三八三号事件控訴人)

主文

原判決を次のとおり変更する。

一審被告は一審原告に対し金一、〇二八万五〇〇〇円ならびにこれに対する昭和四七年四月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

一審原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分しその三を一審被告の負担としその余は一審原告の負担とする。

本判決は一審原告勝訴部分に限り仮にこれを執行することができる。

事実

当事者の求めた裁判

一  一審原告

(一)  昭和四九年(ネ)二〇五二号事件

「一審被告は一審原告に対し金一、七〇二万円およびこれに対する昭和四七年四月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え(当審における拡張請求を含む)」と原判決を変更する。との判決ならびに仮執行の宣言

(二)  昭和四九年(ネ)二三八三号事件につき控訴棄却の判決

二  一審被告

(一)  昭和四九年(ネ)第二〇五二号事件

「本件控訴を棄却する

控訴費用は一審原告の負担とする。」

との判決

(二)  昭和四九年(ネ)第二、三八三号事件

「原判決中一審被告の敗訴部分を取消す。

二審原告の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ一審原告の負担とする。」

との判決

当事者双方の主張および証拠の関係は左のとおり附加訂正するほか原判決摘示の当事者主張事実および証拠関係(一審被告に関しない部分を除く)と同一であるからこゝにこれを引用する。

一  一審原告の主張

(一)  原判決書摘示の請求原因三(二)休業損害中同四枚目表六行目「金八八万円」を「金一〇〇万円」に同末行から同裏一行目にかけて「昭和四七年一月三一日まで二二ケ月」を「昭和四七年三月三一日(原審においては症状固定を同年一月三一日と主張したが当審においては賃金センサス年度との関係上これを同年三月三一日と改めて主張する)まで二年と二〇日間」に、同行目から二行目にかけて「金一一〇万円」を「金一二二万円を下らない」に同八行目から九行目にかけて「右金一一〇万円から金二二万円を控除した金八万円」を「右金一二二万円から金二二万円を控除した金一〇〇万円」に各改める。

(二)  同四枚目裏末行から同七枚目表四行目までを削除しこの部分を

「(三) 逸失利益 金一九一四万円

控訴人は本件事故当時高校を卒業して四年経過した健康な二三歳の男性であつたが、前記のとおり本件事故により蒙つた傷害を治療した結果視力障害、顔面醜状、流涙等の複数後遺障害を残して病状は固定したが、この後遺障害が労働基準法施行規則別表第二身体障害等級表に定める第八級に相当しそのため労働能力の四五パーセント(原審においては長期間に渉る残存稼動可能期間中における病状回復を見込んでこれを三五パーセントと主張したが)を喪失したところ、控訴人はなお右症状の固定した昭和四七年四月一日の二四歳から六六歳の同八九年三月三一日まで四二年間就職して働ける筈であり、毎年度労働省労働統計調査部作成の賃金構造基本統計調査いわゆる「賃金センサス」による左記(イ)(ロ)(ハ)の企業規模計男子労働者、高校卒の全年齢層平均収入を下らない収入を得たことになるから、その間の右労働能力の喪失四五パーセントによる収入の減少を計算すると(昭和四七年三月三一日現在における現価をホフマン方式により年五分の中間利息を控除して求める。)その金額は別表のとおり金一九一四万円(別表のとおりその合計は金一九一四万二四二六円となる。)を下らない金額となる。

(イ)  昭和四七年四月から昭和四八年三月までの昭和四七年度は年収一二九万五六〇〇円(賃金センサス昭和四七年度月収八万四一〇〇円の一二ケ月分年収一〇〇万九二〇〇円と年間賞与二八万六四〇〇円の合計。)

(ロ)  昭和四八年四月から昭和四九年三月までの昭和四八年度分は年収一五四万二二〇〇円(賃金センサス昭和四八年度月収一〇万一二〇〇円の一二ケ月分年収一二一万四四〇〇円と年間賞与三二万七八〇〇円の合計。)

(ハ)  昭和四九年四月から昭和八九年三月までの四〇年間は毎年年収一九五万三〇〇〇円(賃金センサス四九年度月収一二万六七〇〇円の一二ケ月分年収一五二万〇四〇〇円と年間賞与四三万二六〇〇円の合計。)」

と改める。

(三)  同七枚目表五行目「金四五五万円」を「金四〇〇万円」に、同裏七行目「相当である。」を「相当であるが内金四〇〇万円を請求する。」に各改める。

(四)  同七枚目裏八行目「金三五四万円」を「金九八九万」に改め同八枚目表三行目「受領した」の下に「ほかその後昭和五〇年四月一審で被告であつた訴外東京海上火災保険株式会社から金六三四万九〇〇〇円の支払を受けた」を加え同行目「金三五四」を「金九八九」に改める。

(五)  同五行目「金一四二万円」を「金二二二万円」に改め同六行目「本件」の下に「第一、二審の」を加え同六行目「一割」を「一割五分」に同九行目「金一、七七八万円」を「金二、四八九万円」に同一〇行目「金三五四万円」を「金九八九万円」に同「金一、四二四万円」を「金一四八〇万円」に同「一割」を「一割五分」に同一〇行目「金一四二万円」を「金二二二万円」と各改める。

二  一審被告の主張

一審で一審被告と共に共同被告の関係にあつた三名中の一人であつた訴外東京海上火災保険株式会社から一審原告は原判決か右会社に支払を命じた金員全額を受領したことによつて右会社および一審被告と共に本件事故について共同不法行為者の関係があるとして損害賠償の請求を受けていた一審で共同被告の関係にあつた他の一人である訴外林義郎に対し右受領に係る金額を超える部分の本件損害賠償請求債務を免除し右両訴外人に対する控訴を取下げたところ、共同不法行為者間には相互に連帯債務者間の法律関係が存立するから共同不法行為者として訴求を受けていた右訴外林義郎に対する債務免除の効力は当然共同不法行為者の他の一人として訴求を受けている一審原告にも及びこれによつて一審原告の一審被告に対する右受領金額以上の債務は消滅した。

三  証拠関係〔略〕

理由

左記の付加訂正のほか原判決摘示の理由(一審被告に関しない部分を除く)を引用する。

一  原判決書二〇枚目表七行目の次に行を改めて「控訴人は原審において休業期間を本件事故の昭和四五年三月一一日の翌月である同年四月一日から右事故による傷害が固定した昭和四七年一月三一日までの二二ケ月と主張しながら当審においてはその終期を賃金センサスの年度の関係上昭和四七年三月三一日と主張し二年と二〇日間の休業による損害額を請求するが、前認定の通り控訴人が事故による傷害の治療のため入院ないし通院して仕事を休業するの止むなきに至つたのは、昭和四五年三月一一日から昭和四七年一月二七日までであり、かつその間通院の傍ら姉夫婦方で働き若干の収入を得ていたのであるから、休業期間の終期は傷害の症状が固定し通院による治療も終了した昭和四七年一月二七日までで、その後は後段認定の三五パーセントを喪失した労働力によるものではあるが稼働が可能であると解し傷害による休業期間を二二ケ月間とするのが相当であり、たゞ賃金センサス年度の関係だけによつてこれを延長するは適当でなくこの点に関する控訴人の当審における主張はその理由がない。

二  同二〇枚目裏五行目「二三歳」を「二二歳」に改め同九行目「るが」以下同二二枚目表二行目までを「その低下の割合は一般的には四五パーセント程度(昭和三二年七月二日基発第五五一号労働省労働基準局より各労働基準局あて通達参照)となるが、控訴人が昭和四七年一月二七日の本件事故による傷害の症状が固定した当時は二四歳の若年であり、その時から当裁判所は顕著な統計上認められる平均余命年数の範囲内でこの種事件の従前の判決事例を参照して相当と認める六五歳までを稼動可能年齢と認め、かつその間の四一年に渉る長期の残存稼動可能期間があることを考慮すると一審原告が原審で自から主張していたようにその長期間中に労働力の回復の可能性が見込まれるので後遺症逸失利益算定の稼動期間を通ずる労働力喪失の平均割合はこれを三五パーセント程度と解するのが相当であり而して右稼動期間中における企業規模計男子労働者高校卒全年齢平均収入の

(イ)  昭和四七年四月から昭和四八年三月までの一年間は昭和四七年度賃金センサスによつて金一二九万五、六〇〇円(月収八万四、一〇〇円の一二月分と年間賞与二八万六、四〇〇円内の合計)であること

(ロ)  昭和四八年四月から昭和四九年三月までの一年間は昭和四八年度賃金センサスによつて年収が金一五四万二、二〇〇円(月収一〇万一、二〇〇円の一二ケ月分と年間賞与三二万七、八〇〇円の合計)であること

(ハ)  昭和四九年四月から控訴人が六五歳に達する昭和八八年三月までの三九年間は昭和四九年度賃金センサスによつて毎年年収が金一九五万三、〇〇〇円(月収一二万六、七〇〇円の一二ケ月分と年間賞与四三万二、六〇〇円の合計)であることがそれぞれ認められるので前記認定の労働力喪失三五パーセントの割合による逸失利益の昭和四七年四月から昭和八八年三月末日までの前記四一年間における損害額の総額を昭和四七年三月末日における現価をホフマン方式により年五分の割合の中間利息を控除して求めると金一、三七四万五〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となり、従つて控訴人は本件傷害の後遺障害のため同額の得べかりし収入を喪失による損害を蒙つたというべきである。」に改める。

三  同二二枚目表九行目から同裏六行目までを

「(五) 損害の填補

控訴人が本件損害の填補として合計金九八九万円の弁済を受けたことは控訴人の自認するところである。」

と改める。

四  同二二枚目裏七行目および同二三枚目表四行目の各「金五八万円」を各「金一〇〇万円」に改める。

五  同二三枚目表七行目「金三八七万九〇〇〇円」を「一、三七四万五〇〇〇円」に同八行目「金九三〇万九〇〇〇円」を「金一、九一七万五〇〇〇円」に同「金三五四万円」を「金九八九万円」に同九行目「金五七六万九〇〇〇円」を「金九二八万五〇〇〇円」に同「金五八万円」を「金一〇〇万円」に同一〇行目「金六三四万九〇〇〇円」を「金一、〇二八万五〇〇〇円」に同「内金五七六万九〇〇〇円」を「これ」に各改める。

六  債務免除の抗弁について

この点については一審被告の主張事実のうち一審原告と共に一審において共同被告の関係にあつた訴外東京海上火災株式会社および同林義郎に対する控訴が取下げられたことは本件記録上明かであるが控訴の取下があつたからといつて当然には一審判決で命ぜられた支払金額以上の金額についての債務の免除があつたとは云い得ないし他に右林義郎に対する債務免除についてはこれを認めるに足りる証拠がないから一審被告の抗弁は採用できない。

以上により原判決中右の範囲内の一審原告の本訴請求を棄却した部分は失当として取消を免かれず一審原告のこの部分に関する控訴及び当審における右範囲内の拡張請求は理由があるけれどもその余の一審原告の控訴および当審における拡張請求ならびに一審被告の控訴はその理由がない。よつて原判決を変更し右の範囲内の請求を認容し、その余の請求を棄却し訴訟費用は第一、二審共勝敗の割合に鑑みこれを四分しその一を一審原告の負担としその余を一審被告に負担せしめ仮執行を付するのを相当と認めて主文のように判決する。

(裁判官 菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

別表 後遺症期間の収入損

▽(期間)昭和47年4月(24才)~昭和89年3月(66才)=42年。

▽(現価基準日)期間前日,昭和47年3月31日。

▽(中間利息控除)民法所定単利年5分を年ごとに控除する

ホフマン式。

▽(初年度)昭和47年4月~昭和48年3月=1年。(原状収入)

¥1,295,600×(減収率)0.45×(現価係数表1年の値0.9523=(収入損現価)¥555,209。

▽(次年度)昭和48年4月~昭和49年3月=1年。(原状年収)¥1,542,200×(減収率)0.45×(現価係数表2年の値1.8614-同1年の値0.9523=当該1年分の現価係数)0.9091=(収入損現価)¥630,906。

▽(3年目以降)昭和49年4月~昭和89年3月=40年。(原状年収)¥1,953,000×(減収率)0.45×(現価係数表42年の値22.2930-同2年の値1.8614=当該40年分の現価係数)20.4316=(収入損現価)¥17,956,311。

▽(収入損現価合計)¥555,209+¥630,906+¥17,956,311=¥19,142,426。

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